村上春樹の『羊をめぐる冒険』を読むこと2周目。
そろそろ内容について考察していこうと思い、この記事を書いて行こうと思います!
『羊をめぐる冒険』について
『羊をめぐる冒険』の概要
- 村上春樹の第3作目の長編小説
- 出版年‥‥1982年
- ページ数‥‥406p
- 鼠三部作の最終作
- 上下巻で文庫化されている
- 本作で第4回野間文芸新人賞を受賞している
鼠三部作の最終作!
『羊をめぐる冒険』の特徴は、何と言っても鼠三部作の最終作だという事。
この『羊をめぐる冒険』で、「鼠」の結末が明らかになります!
『羊をめぐる冒険』の考察:鼠の「死」について
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鼠の死が明らかになる
鼠の結末としては、彼は自殺してしまいます。
「君はもう死んでるんだろう?」
鼠が答えるまでにおそろしいほど長い時間がかかった。ほんの何秒であったのかもしれないが、それはぼくにとっておそろしく長い沈黙だった。口の中がからからに乾いた。
「そうだよ」と鼠は静かに言った。「俺は死んだよ」
「台所のはりで首を吊ったんだ」
『羊をめぐる冒険 (下)』村上春樹 p.196~p.197
「悪者」として描かれる羊が入り込んだ鼠
この作品では、背中に星形の斑紋がついた羊は悪者として描かれていて、これまでに「先生と呼ばれる人物」、「羊博士」の中に入り込んでいます。
そして、羊が体内から出ていく「羊抜け」を経て、彼らは悲運な人生を歩むことになります。
というのも、「羊抜け」はかなりの精神的苦痛を伴うからです。
羊博士:「ある朝目が覚めるともう羊の姿はなかった。その時になって私はやっと『羊抜け』というのがどういうものかを理解することができた。地獄だよ。羊は思念だけを残していくんだ。しかし羊なしにはその思念を放出することはできない。これが『羊抜け』だ」
『羊をめぐる冒険 (下)』村上春樹 p.60
鼠も、その羊が体内に入り込んだ人のうちのひとりです。
そして、羊という悪が鼠を完全に支配してしまう前に、鼠は羊を呑み込んだまま首を吊ります。
鼠が自殺した理由:キー・ポイントの”弱さ”について
羊という悪のために鼠は自殺したように見えますが、根本的な原因は他にあります。
それは、”弱さ”です。
ただし、ここで言う”弱さ”は人間なら誰しも抱えているものではなく、一般論を超越した”弱さ”です。
作中では以下のように説明されています。
「何に対する弱さなんだ?」
「全てだよ。道徳的な弱さ、意識の弱さ、そして存在そのものの弱さ」
僕は笑った。今度はうまく笑うことができた。
「だってそんなことを言い出せば弱くない人間なんていないぜ」
「一般論は止そう。さっきも言ったようにさ。もちろん人間はみんな弱さを持っている。しかし本当の弱さというものは本当の強さと同じくらい稀なものなんだ。たえまなく暗闇にひきずりこまれていく弱さというものを君は知らないんだ。そしてそういうものが実際に世の中に存在するのさ。何もかもを一般論でかたづけることはできない」
『羊をめぐる冒険(下)』村上春樹 p.201
羊が鼠の中に入り込んだのも、鼠にこの”弱さ”が存在していたからだと思われます。
【まとめ】著者が伝えたいことについての考察:弱さから逃れることはできない
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最後に、この作品を通して著者が伝えたいことについての考察をしていきたいと思います。
個人的には、「人間は自分の抱える弱さから逃れることができない」という事だと思いました。
これは3部作を通しての鼠を見てきての結論です。
決定的な弱さを抱えていた鼠は、今の自分を変えようと決心して故郷の街を飛び出します。(1973年のピンボールから)
しかし、この『羊をめぐる冒険』で結局自殺を選択してしまいます。
「人間は自分の抱える弱さから逃れることはできない」