みなさんこんにちは。
今回は村上春樹の小説家としてのデビュー作品である『風の歌を聴け』の「あらすじ/考察」について書いていきたいと思います。
『風の歌を聴け』で著者が語っていることを解き明かしていきたいと思います!
『風の歌を聴け』について:村上春樹の原点ともいえる作品
『風の歌を聴け』の概要
『風の歌を聴け』がどんな小説であるのか、簡単にまとめてみました。
- 発売年‥‥1979年
- ページ数‥‥160p
- 村上春樹の第1作目の長編小説
- 第22回群像新人文学賞受賞
- 1981年に大森一樹監督によって映画化されている
村上春樹のデビュー作、それがこの『風の歌を聴け』です。
ちゃらちゃらした小説?
本作の群像新人文学賞時の評価を調べていたところ、おもしろいことが書かれてありました。
当時、発行元の講談社の内部でなんとこんなことを言われていたみたいです。
「こんなちゃらちゃらした小説は文学じゃない」
本作を3度読んだ僕から言わせてもらうと、たしかに「ちゃらちゃら」してると思われても仕方がないような気がしないでもないです。(笑)
『風の歌を聴け』のあらすじと登場人物
1970年、舞台は人口7万人程度の港町。
主人公は大学の夏休みに故郷に帰省している。
ジェイズ・バーで友人の鼠と酒を飲んだり、「ジェイズ・バー」の洗面所の前で倒れていた左手が4本指の女の子を介抱して家まで送ってあげる主人公。
故郷ならではの哀愁が立ち込める、村上春樹のデビュー作です。
あらすじはこんな感じですが、この小説はエッセイ要素がとても強く、ここに書いた以上の内容が本文に含まれています。
【主な登場人物】
鼠‥‥主人公が故郷の町で偶然知り合った友達。実家がお金持ち。
ジェイ‥‥主人公の故郷にある「ジェイズ・バー」の店主。年齢は40歳ぐらい。中国人。
左手が4本指の女の子‥‥17~19歳。双子の妹がいる。レコード店で働いている。
『風の歌を聴け』の考察:「人間の不完全性」と「世界は広い」
それでは、『風の歌を聴け』の考察に入っていきたいと思います。
この小説にテーマはない
まず最初に、この小説にテーマ(主題)は存在しないと僕は思います。
なぜテーマがないのか、それはこの小説は著者がこれまでに抱えていた思いがそのまま書かれているからです。
今、僕は語ろうと思う。もちろん問題は何ひとつ解決してはいないし、語り終えた時点でもあるいは事態は全く同じということになるかもしれない。結局のところ、文章を書くことは自己療養の手段ではなく、自己療養へのささやかな試みにしか過ぎないからだ。
『風の歌を聴け』村上春樹 p.8 l.7~10
小説を通して「読者にこれを伝えよう!」という思いが無く、著者が以前から抱えていた思考が自然に小説になっているというイメージです。
でも、著者にとってはテーマを設定していないにしても、読者側の視点に立つとテーマと捉えることができる事柄は存在します。
そして、それは「2つ」あると僕は思います。
著者の思考その1:人間の不完全性
この小説で著者が主に述べていること(著者がこれまでに抱えていた思い、考え)の1つ目は、
「人間の不完全性」についてです。
この小説では、人間という生き物がいかに不完全に作られているかを感じ取れる部分がいくつかあります。
- p.121の主人公の発言(下記に引用)
- p.134~136にかけての会話
- ジョン・F・ケネディーの言葉
- 左手が4本指の女の子
- 主人公の自殺した元カノ
- ラジオ番組に手紙を送った入院中の女の子
「何かを持ってるやつはいつか失くすんじゃないかとビクついてるし、何も持ってないやつは永遠に何も持てないんじゃないかと心配してる。みんな同じさ。だから早くそれに気づいた人間がほんの少しでも強くなろうって努力すべきなんだ。振りをするだけでもいい。そうだろ?強い人間なんてどこにも居やしない。強い振りのできる人間が居るだけさ。」
『風の歌を聴け』村上春樹 p.121 l.7~11
人間の不完全性は、金持ちの鼠を見てもわかります。
やっぱり人間は生きている以上、「お金持ちになりたい」「お金が欲しい」という思いがありますよね?
でも、実際にお金をたくさん持っている人が幸せだとは限らず、先ほど引用した「いつか失くすかもしれない」という心配や他の高次元の悩みを抱えていたりするものです。
著者の思考その2:「世界は広い」ということ
2つ目は、「世界は広い」ということです。
たとえば、作中に鼠が好物だという「コカ・コーラを注いだホットケーキ」が登場します。
ホットケーキにコーラをかけて食べるなんて普通ではありえないというような食べ方ですよね?
でも、そういう食べ方があってダメだというルールなんかはなく、存在してもいいはずです。
そして、この小説には「宇宙」についての記述がいくつか見られます。
この小説を読むと、「世界はぼくたちが思っているより広い」ということ、「目に見えているものだけが全てではない」ということがわかります。
p.149「僕は・君たちが・好きだ。」の意味
これは、リクエスト音楽をかけるラジオ番組のMCが3年間寝たきりの入院生活を送っている17歳の女の子から送られてきた手紙を読んでからその子に向けて言った言葉です。
作中でも何度か言われているように、人間は生まれつき不公平に作られています。
何の病気に罹ることもなく過ごすことができる人もいれば、この女の子のように3年間寝たきりの生活を送らざるを得ない人もいます。
この不公平をどうにかしようと考えた結果、出てきた言葉が「僕は・君たちが・好きだ。」という「愛の言葉」なんではないでしょうか。
たしかに、人間は生活していくうえでそれぞれに不平等なのかもしれません。
でも、人々がみんな愛を持ち合わせて生きて行けば、そこに生活上の不平等なんてものはなくなると思います。
【まとめ】
『風の歌を聴け』は村上春樹のデビュー作なわけですが、この作品には村上春樹が日常的に考えている事がありのままに示されている小説だと思います。
僕の推測ですが、彼には世の中の在り方に対して何か疑問を抱いていたのではないでしょうか。
解決策を模索した結果、それが「小説を書く」という事だったのかもしれませんね。